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382  ひとりづつ雛飾り行くわが裡に吾娘はいくども幼子となる* [文芸(短歌・俳句) 時事]

                                    

  随想コラム「目を光らせて」NO.382 「朝日歌壇・朝日俳壇から」

 

     歌壇  期間:20105~3.26

 

    

   ひとりづつ雛飾りゆくわが裡に

 

      吾娘はいくども幼子となる

 

  題 目:

  朝日新聞(2018.3.19)(福島市)新妻順子さんの入選作。

            アオウ ヒコ

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         画像:洋画家 青沼茜雲画伯の作品集から。                        

           45.「古代の雄 磐井 像」   

              フランス・サロン・ドトンヌ会員

   

              ノルウエー財団認定作家

       

                 世界芸術遺産認定作家

 

                 日展所属

 

 

 

       「朝日歌壇・朝日俳壇から」 

 朝日新聞の歌壇・俳壇の入選作の中から最近の事象を取上げた

作品を選び筆者コメントを付けています。コメントは文芸上

の範を越えることがあります。作品の頭に付い作品は

時の政権が推進す前のめりの右傾化路線や平和憲法を無視し

国会の存在をないがしろにするさまを危惧する市民の投稿作品

す。これらの作品は、ここでは個々の作品の文芸上の軽重を問う

ことなく、注目すべき最新話題の作品として、そのすべてを採録

しています。これらの作品に対しては、作者真摯な叫びに耳素

直に従うべし、としてコメントはつけておりません。

 また、文中敬称は省略しています。(筆者)

 

      朝日壇 2018.3.05   

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 すいれんの巻葉の紅に日は差して池の底にもうごめくいのち

 

     (松阪市)こやまはつみ

 

 花を愛してやまぬ人。地の上に咲く花だけでなく、水上に浮かぶ睡蓮

 

の巻葉の紅にも目を凝らす。春の日を感じているのだろう。池の底では

 

睡蓮のいのちが動き始めているようだ。

 

 

 相ともに握り合いたる日もありし妻の両の手組み合はされつ

 

        (長野県)  殿内英穂

 

 夫婦としての長い期間中にお互いに手を握り合って歩いたり、過した

 

りしたものだ。だが、妻に先立たれた今、妻の両手は胸の上で組み合わ

 

せられて静かに動かない。ああ、ともに手を握り合う日はもう来ない。

 

 

 あけぼのに一瞬煌めき迫り上がる氷の合掌諏訪湖御神渡り

 

         (碧南市)  鳥谷春江

 

 ここしばらくは暖冬のため諏訪湖の全面結氷は起こらず「御神渡り」

 

忘れられた感があった。しかしこの冬の厳寒は久しぶりに諏訪湖の

 

御神渡が報じられた。その現象を「氷の合掌」という表現を使った歌

 

に初めて出会った。 湖の氷の盛り上がり破裂の現場はもっと荒々し

 

いが、神事というのだから合掌で収斂させたというのであろう。

 

 

 何ごともなかったように日は昇り名護市長選報道される

 

       (横浜市)田中懬義

 

 

 不知火の海は水銀の毒に泣き石牟礼道子を喪いて哭く

 

          (三鷹市)  山室咲子

 

 

 滅びまでたった二分と予測する人類の知は賢く愚か 

                   

      (郡山市) 柴崎 茂

 

 

 捨て雪の山は春には消えてゆく春にも消えぬ核廃棄物

                    

      (村上市) 鈴木 正芳

 

 

 きさらぎの十日夕刊一面で和服に笑ふ石牟礼道子

                     

         (東京都) 荒井 整

 

 

   朝日壇 2018.3.12

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 ほんとうに使う気なんだ核兵器を扱いやすい大きさにする

                      

         (千葉市) 佐々俊男

 

 

 湯を注ぎ3分待っているうちに終末時計はあと2分という

 

      (新潟市) 太田千鶴子

 

 

 宰相の夫人の名前今日も読む電光ニュースにパートの帰り

 

         (所沢市) 若山 厳 

 

 

 

  中指と薬指との間から四回転の羽生を見る女

 

      (伊賀市) 上門善和

 フイギュア選手権に出た羽生選手を見ようと集まった観衆たち。彼の

 

四回転の成功と失敗は、嬉しさと恐ろしさの表裏一体。まともに見るの

 

は恐いから、目の前に指を二本翳してその隙間から着氷を見る女性フア

 

ンがいた。ご本人は羽生君を見ず、観客席を観ていたらしい。

 

 

 沖縄の嘆きは深く海濁り儒艮(ジュゴン)は去りて軍船来る

 

      (秋田市) 小松俊文

 

 

 

  人間が槍のごとくに飛んで行くスキージャンプは気を付

 

   をして    (大阪市) 小熊光子

 

 鋭角の斜度を持つ滑走路を腰を低めて滑降りるスキージャンプ。この

 

歌はそれから先を描写している。放たれた槍は高く風に乗せて、水平を

 

維持しながら、馭者は「気を付け」の姿勢を崩さずに着地を完成させる。

 

 

  雪積もり如月の空晴れ渡り雪吊縄のゆるみてうらら

 

     (金沢市)林 英一

 季節外れの雪が積もってはいるが、きさらぎの空は快晴、雪は解けて

 

雪吊縄も緩み、暖かい春の季節になりました。

 

 

 「のさり」とふ受容の言葉哀しけれ水俣に添ひ石牟礼さん

  逝く(さいたま市) 伊達裕子

 二月十日死去した石牟礼道子さんを悼む歌。水俣病を「のさり(天か

らの授かりもの)」として受容する被害者に寄り添ってきた作家。

 水俣病:有機水銀中毒による神経疾患。四肢の感覚障害・運動失調・

言語障害・視野狭窄」・ふるえなどを起こし重傷では死亡する。

 1953年~59年に水俣地方で工場廃液による有機水銀に汚染した魚介

類を食したことにより、集団的に発生した。(広辞苑)

 

 「ああ」という声のしばらく漂いて独り居なれば行き場失う            

     (名古屋市) 山西喜子

 永らくともに過ごした連れ合いが亡くなって、居る人が居ないことに

漸く気付くようになって「ああ」と嘆声を出すと、それは部屋に暫ら

漂い、その声を受け止める人がいないために収蔵する場所がありません。

  小型核開発目指す米国に遠き故郷長崎想ふ

 

     (鳥取市) 石井千代子

 

                 

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   「目を光らせて」NO.382「朝日歌壇・朝日俳壇から」

 

            つづく → NO.382-2                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               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382-2 忘れたら君は二度死ぬ七年を供養のために拾う桜花 [文芸(短歌・俳句) 時事]

 

                           ■                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               

                        朝日歌 201.319 

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  意味もなく泳げた夏は遥かなり常に乾かぬ友の胸板                                                              

      岐阜市)後藤 進     

  「泳ぎに行くかい」と友を誘えば「そうさな、行こう」と夏の川や

 

海へ出かけたものだ。あの夏はもうとっくの昔の思い出になってしまっ

 

た。しょっつう彼とは一緒だったから、彼の胸板は泳ぎの水でいつも濡

 

れていたことだった。

 

 

 四十余で隠居せし祖父の口癖は「捨てた命じゃ」インパー

  ル遥か (東京都) 斑山 羊

 

  兜太逝き今は秩父の狼と遊んでいるか歌っているか                                                

      (白井市) 毘舎利愛子

  これも金子兜太の逝去を悼む惜別の歌。明るい気分に満ちている。

   

 

  薔薇一輪挿され明るい玄関で門出といわれる退職の朝

 

      (東京都)青木公正

 

 長い間、ご苦労様でしたと、心からの感謝の印を告げて夫を送り出す

 

退職の朝。

 

 

  ひとりづつ雛飾りゆくわが裡に吾娘はいくども幼子となる

 

     (福島市)新妻順子

 

 段飾りの雛飾りを、ひとりづつ緋毛氈の段に飾ってゆく。そのたびに

 

当時の吾娘の姿が幼子の姿になって目の前に現れる。懐しい想いと共に。

 

 

                                

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  道端にたんぽぽひとつ咲いてゐて金子兜太の笑顔浮かべり

 

      (熊谷市)内野 修

 

 これも金子兜太の逝去を悼む惜別の歌。大きな黄色いタンポポの花が

 

金子兜太の笑顔を思い出させる。

 

 

  てのひらに春の光を掬ふとき迷い雪降るふたひらみひら

 

      (山形市)佐藤幹夫

 

 空から明るい春の光がさんさんと降り注ぐ中に分け入って掌にそれを

 

掬っている。その時、あろうことか、迷い雪が降りおりてきた。ふたつ

 

みっつ。

 

 

  ラバウルの野戦病舎の敷地にて父呼びたれば風立ち騒ぐ

 

      (高知市)佐野暎子

 

 

  やり場なき怒りかかえて兜太さんのあのプラカードと

 

   佇ちし夏の日

 

      (水戸市)中原千鶴子

 

 

 

  忘れたら君は二度死ぬ七年を供養のために拾う桜花

 

      (さくら市)大場公史

 

 まだ君を忘れてはいない。毎年その日のために供養の桜花を供え続け、

 

君はまだ僕のうちに生きている。それでも、もう七年が経つのか。だが、

 

君への供養をなしにすれば、君は確実に二度死んでいく。僕のもとから離

 

れて行ってしまう。ああ、それは出来ない。

 

 

 

             朝日歌壇 2018.3.26

 

                    

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 千年の楠芽吹きけりその樹下のこの町よりの戦死者の墓碑

 

     (沼津市)石川義倫

 

 

 先住民の土地を奪ひし末裔が国境に塀を築かんとする

 

     (横浜市)籾山 肇

 

 

  逢瀬橋、逢隈橋を風と渡り幼き吾に会いに行く春

 

      (福島市)美原凍子

 

 作者はまさかあのような原発事故に遭遇し、連れ合いを亡くす不幸に

 

苛まされてきたことだった。再び巡りくる春、福島に架かる懐かしい橋

 

の幾つかを渡り歩いて、幼年時代の自分に会いに出かけましょう、っと。

 

 

 

 先生に銃を携帯させようとう嘘か本当か本当の話

 

     (舞鶴市)吉富憲治

 

 

  仲たがひしたる姉妹とそれぞれの向きもちて咲く山茶花の

 

  花

 

     (茅ヶ崎市)若林禎子

 

 二つともそっくり、よく似ていますよ。というは、仲が悪くてどうしよ

 

うもない姉妹とツンツンいがみ合って自分勝手に咲く山茶花の花。全く似

 

たようなものですよ。

 

 

                                 

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  トラック島に蛙も蛇もいなければ蝙蝠焼いて食べたと兜太

 

      (前橋市)荻原葉月

 

 兜太さんは二次世界大戦で召集されて南洋へと向かう。軍部は兵は送

 

り込んでも、食料は十分に供給しなかったので、戦地の兵のほとんどが

 

食糧難の飢餓状態に陥り、手当たり次第に現地で虫や小動物を口にして

 

命を永らえざるをえなかった。公報は戦死であろうと、そのほとんどは

 

餓死によるものとされている。兜太さんの生命観や戦争を忌避する思い

 

の全てがこの異国の地での苦難に満ちたの日々の体験から、確固な信念

 

として定着している。

 

               

 

      (2018.4.15)

 

 

URL: http://columneye.blog.so-net.ne.jp/ 
   

 

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         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381 飾焚くとき楪(ゆずりは)のこぼれ落つ [文芸(短歌・俳句) 時事]

 

    随想コラム「目を光らせて」NO.381「朝日歌壇・朝日俳壇

 

 

      俳壇 期間 2018.2.4~2.26

 

 

             

              飾焚くとき楪のこぼれ落つ

 

 

 

       * : 

       朝日新聞 201.2.04堺市)吉田敦子作

              アオウ ヒコ

 

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    洋画家青沼茜雲 画伯 の作品集から。44.天空を行く磐井

 

イギリス王立美術院名誉会員 フランスサロン ド トンヌ会員

ノーベル ノルウエー財団認定作家 ・世界芸術遺産認定作家 日展所属

                   

       「朝日歌壇・朝日俳壇から

  朝日新聞の歌壇・俳壇の入選作の中から最新の世相を鋭く切り取った

 

 作品を新た選び、コメントを付けています。コメントは文芸上の範を

 

 超えることがあります。

 

  作品の頭に印が付いている作品は、時の政権が推進る前のめり

 

 右傾化路線平和憲法を無視し、国会の存在をないがしろにするさまを

 

 危惧する市民の投稿になるものです。

 

  これらの作品は、ここでは個々の作品の文芸上の軽重を問うことなく

 

 注目すべき最新の世相を凝縮した作品として、そのすべてを採録してい

 

 ます。これらの作品に対しては、投稿者の真摯な叫びに読者の耳、素直

 

 従うべしとして、コメントはつけておません。

 

  また、文中敬称は省略しております。(筆者)

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     朝日俳壇 2018

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   飾焚くとき楪のこぼれ落つ

 

             (堺市)吉田敦子

 

 正月飾りに用意した注連飾りの季が終ると、飾りを火にくべて(焼い

 

て)正月気分とお別れする日が来る。飾り焚く、である。しめ縄、裏白

 

橙(だいだい)などをまとめて裏庭でくべたとき、そのほとんどは乾燥

 

しているため、火付きがよく燃え上がるが、楪(ゆずりは)だけは一蓮

 

托生の燃焼をしなかった、という。楪は常緑高木。葉は長楕円形で厚く

 

暗緑色、新しい葉が成長してから古い葉が譲って落ちるので、橙と楪は

 

(一家代々譲る)の縁起物として欠かせない。

 

 さて、このお宅の「飾り焚き」の焔は他のものは軽く焼き尽くしたの

 

に、楪だけが仲間から零れ落ちた。これは何かの予兆であるのか。

 

「わが家は代々譲るがしっかり根付いている証拠として焼けずにしぶと

 

く残ったのよ」」安堵されるのであれば、これに勝る慶事はなしである

 

が、もし、注連飾りの具の面々が同時に燃え尽きなければ凶なり、とす

 

る言い伝えがあれば、ダイダイユズルの吉相に異変が生じる。

 

                                                                          

         

 

   恐竜の哀しみ鶴の目に残る

 

           (芦屋市)瀬戸幹三

 

 

 鶴の姿を遠くから見て、美しい均整の取れた肢体よな、と思うことは

 

あるが、個体の近くに近寄って鶴の目をしげしげと見詰めたことがない

 

ので、どういう眼を持っているのか、皆目見当がつかない。しかし「恐

 

竜の哀しみ鶴の目に残る」とあるから、大きく全天候型の機能を備えた

 

立派な目をしているのであろう。恐竜が栄えたジュラ紀(約一億四千年

 

前)始祖鳥が現れ、その系で鶴の祖先も姿を見せていただろう。突如と

 

して巨大な小惑星が隕石として地球に降り、古生代の動植物相に激変を

 

もたらした。恐竜の命は抹殺された。そのころ、始祖鳥から枝分かれ

 

て進化していた鶴の祖先は上空高く舞い上がり、命を永らえたが、そ

 

の時の恐竜の死屍累々の惨状を目に留めたことだろう。それ以来、鶴の

 

渡りを目にするとき、人はそれとなく鶴の代々記に思いを馳せるように

 

なる。あの惨事を目にした鶴は必ずやその記憶を自らの眼の記憶素子に

 

留め続け、以来、鶴の祖先の眼にはあの時の恐竜の哀しみを留めた遺伝

 

子が伝えられている、と信じているようだ。

 

 

                                    

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   立春や痩せて倒るる炭俵

 

       (大分県日出町)松鷹久子

 

 

 今年の冬はことのほか寒く、暖を取るために準備し戸外に立てておい

 

た炭俵がみるみる減り続け、痩せて終に倒れてしまうまでに。漸く春に

 

なり、助かりました。

 

 

 

   埋火のごと言ひかねてをりにけり

 

         (群馬県東吾妻町)酒井大岳

 

 

 まだ地方では、冬の朝には火鉢を出し、炭火を熾して火鉢に移し、真

 

中で灰に埋めて埋火とする習慣が残る。灰の中では埋もれ火は真っ赤に

 

なったままの静かな炭火として永持ちするが、一旦、灰を脇に寄せて埋

 

火に直接空気を当てたりすれば、本来の炭火の勢いを盛り返してくる。

 

 

 このごろ、私は外見では、言い出したいことを言わないでいるので物

 

静かそのものだと見られているが、本当は埋火のように、きっかけがあ

 

れば、ばあっと燃え上がるのを待っているのだ。亡くなった妻に対して

 

も、ぐっと抑えている自分がいる、と思うことがある。

 

 

 

   一湾の底の底まで初凪に

 

        (泉大津市)多田羅紀子

 

 

 正月の朝。近くの海へ出た。大洋からは隔絶した一湾の海は無風とあ

 

って、鏡のような凪でそよともしない。これじゃ海面から海底の底まで

 

海水すべてが動かないように思える。初凪である。大洋の海ではこうは

 

いくまい。

  

  

 

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    朝日俳壇 2018.2.12

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   大海の雄叫び浪の花と化す

 

          (浜田市)田中由紀子

 

 

 大海が深海の總エネルギーを巻き上げてまでして咆哮し、陸地の岩場

 

めがけて殺到する時、大海の雄叫びは細かく千切れて泡となり、おりか

 

らの北風に乗って飛ばされ、岩礁に咲く浪の花となる。

 

 

 

   熱燗や昭和を語る者ばかり

 

          (一宮市)岩田一男

 

 

 昭和10年と11年生まれが同窓だった九州K市のM高卒の男女が中心

 

に、東京に出て大学を経て、それぞれに実業をこなし、今は目出度くリ

 

タイアーの身。細る命をお互いに鼓舞しつつ、八十の冥途坂をどうやら

 

歩ける身体能力で東京銀座のライオン本店に出かけ、月一度の「竜胆

 

会」を重ねている。ライオンはサッポロビールを主に酒食を提供するが

 

10年ほど前に比較すると、この会は豪快にビールを呷る姿が細り、ア

 

ルコールだめ、ノンの字がつく似非ビールならウイよの諸子が増えた。

 

 

 暫らくは赤ワインも飲まれていたが、は藷焼酎のロックが主役。話

 

題は病気にまつわる報告が済むと、談論風発に移行。葉室麟への惜別、

 

競馬の魅力、サブちゃんの優勝馬の種付け相場、惜別の金子兜太の兜太

 

何て読む? 日経にも俳句欄があるが朝日のレベルが高いようだな。

 

三月の清瀬稲門会のオペラ鑑賞会、ジュリエットがロメオを待つベラン

 

ダの地上からの距離の低さよ。手をチョイと伸ばせば手が届く、あんな

 

バルニーはないやね。つい最近まで、冷酒専門に飲んでいた野郎

 

「熱燗」を注文、盃を4、5個申し付けての配布。「この頃急に熱燗の

 

良さが判ってね。あの冷酒専門時代が何だったか、という気分だよ」と

 

言い訳する。その時、ふと思う。一宮市の俳人、岩田さんが「熱燗や昭

 

和を語る者ばかり」と詠んでいたよなあ。ほら、ここに集まる十人余、

 

熱燗飲みつつ昭和を語りおるのう。

 

 

 

   憶念の凝り固まれる海鼠かな

 

           (東京都)望月清彦

 

 

 海から揚がったばかりの海鼠の姿を見ての謂いか、刃で細かく捌いた

 

刺身状の海鼠を口にしての感覚を句にしたものか。憶念;深く心中に銘

 

記して忘れぬ考え(広辞苑)という言葉を寄り添わして海鼠の身の引き

 

締まった姿を描いている。酢醤油でナマコを食するときのじんわりと固

 

い深い感覚を現して出色。

 

 

                                   

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   秩父には狼・兜太山笑ふ

 

        (八王子市)北野妙子

 

 

 秩父には俳句の雄、狼と称される兜太先生がいた。春になりましたよ。

 

 

 

 

   屠蘇祝ぎて八十路峠を越えゆかむ

 

             (大津市)井上孝夫

 

 

 正月の料理も、主婦が手料理で時間をかけて揃える姿が、次第に減っ

 

て、数か月前に注文した「おせち重」の配送に依存するようになった。

 

また、屠蘇散を清酒に浸した「お屠蘇」を準備する家庭もめっきり減

 

ったようだ。

 

 正月に家へ来た孫たちには「屠蘇儀式」は不評だった。「辛い!」な

 

どとぬかしおった。連綿と続いた屠蘇文化も、それを支える世代の退潮

 

と共に、そろそろ終束に向かうようでもある。命ある限り、年の初めに

 

は屠蘇祝ぎを忘れず八十路峠を踏み越えて行く気概を持つ青年よ。いつ

 

までもお達者で。

 

 

                 

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    (つづく → NO.381-2.)

 

 

              (2018.4.01)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                                                                                                         


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381-2 もしや͡兒等来るかも知れず雛飾る [文芸(短歌・俳句) 時事]

    随想コラム「目を光らせて」NO.381-2 朝日歌壇・朝日俳壇 



 

    俳壇:もしや兒等くるかも知れず雛飾る

 

                 (津市)森川はづき

 

 

                                                                                                                                                                                                

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   朝日俳壇 2018.2.19

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  美しく消ゆるは難し残る雪 

          (東京都)徳竹邦夫

 滅多に降らない雪。東京などでは初雪の白が降り始めると、歓迎の思

いに駆られる。白く、美しい。特に、子供や、アジア諸国からの観光客

の目には歓喜の声が上がる。東北や北海道の雪国の住民は雪害に悩み続

けているため、怨嗟の情著しい。狭山でも今冬23センチの積雪があっ

た。美しい雪に目を細めたが、なかなか融けず黝ずんだ雪があちこちに

残った。確かに、美しく降って美しく消えるとはなかなか思うようには

いかない。

 

  会ふ人もどんどの尉を髪にのせ 

           (町田市)村井田貞子

 どこかで大型のドンド焼が行なわれているようだ。冬の去るのを惜し

むかのように行われるドンド焼は、次にやって来る春の魁でもある。

 よし私も行ってみようと出かけたが、既に帰路にある人の髪にはどん

ど焼に参加した証しの「尉」を載せている。(註)「尉」(じょう)と

読む。;炭火の白い灰になったもの。(広辞苑)

 ドンドの火が豪勢に高く舞い上がり、正月の縁起物や何かが炎に焼か

れて燃え上がり、その後周りに落下する。取り巻く観衆の髪の上に落下

したものは打ち払わずにいるのが邪気を寄せ付けぬ縁起物であるのかも。

 

 憲法をつつき回すや寒鴉 

         (筑紫野市)二宮正博

 

  枯れゆくか腐りゆくのか日向ぼこ

             (いわき市)馬目 空

 まあ、そこまで自嘲気味に言うことはなかろう、ではあるが、確かに

日向ぼこは残る命の時間を快適さと引き換えに消滅し続けているには違

いない。新しい人生への転生などには結びつく時間の流れではないこと

は確かだ。  

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   兜太選紙面に探す寒の朝

          (横浜市)下島章樹 

 兜太選の入選者に自分が選ばれているかもしれぬと、朝日俳壇の誌

面を探したころの懐かしさ。生きておられればなあ、とする惜別の句で

あろう。(2018.2.26)の日付で上記の句とほとんど同様な句

の入選作あり。 ■  立春や兜太の選を待つ朝

                (安来市)祖田敞至

 

  争うて息白きこと悲しけれ

         (玉野市)勝村 博 

  本号では、冬の寒気厳しい中にいると、人は息をするたびに白い

息を出すことを中心にした句が奇しくも揃った。ここでは冬の寒気の中

で、争うて白い息を吐くなぞ、これは悲しいね、と言っている。

 

  冴え返れ兜太戦後を終はらすな

          (鹿児島市)青野迦葉

 これも兜太追憶の惜別の句。兜太さん、死んだとは思っていません。

戦後の政治の紊乱、傲慢を嘆き、追及に心したあなたの日々の継承と継

続を忘れるな、としている。心酔するあまり、叱咤調になった。

 

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  蝋梅を月の滴と思ひけり

        (岡山市)和田大義

 早咲きの梅花とほぼ同じ時期に蝋梅は咲く。ほぼ円形の円く整った薄

い黄の花がしっとりと花開く。あれは天から降った月の滴ですと思う。

 

   はこべ摘む戦後の飢を子に語り

            (大阪市)田島もり

 はこべは春の七草の一。鳥の餌または人の食用に、利尿剤にも。はこ

べ摘みに野へでかけ、戦後、食べるものが不足するという食料危機があ

ってね、飢えに瀕したことを子供に言って聞かせました。今は考えられ

ぬことですが、長い人生、何が起きるかわかりません。飢えたときに何

が食べられるかを知っておくことも大切ですよ、と。 

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      朝日俳壇 2018.2.26

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    美しや働く人の息白し

         (戸田市)蜂巣厚子

 冬の寒気の中で生きていく人の姿。その人々がそれぞれの態様で白い

息を吐く。美しくもあれば、醜くくもありで、息に変わりはないけれど

である。

 

    もしや兒等来るかも知れず雛飾る

              (津市)森川はづき

 来るかも、来ないかも。実家のお雛様を見に。どちらでもいい。来て

くれれば嬉しいし、来なければ、ちょっとがっかり。忙しいことだろう

しね。家ではこの季節には私のために雛飾りをするのよ。

 

  軍手いまも死語とはならず余寒かな

            (みよし市)稲垣 長

 粗末な綿系の繊維を材料にして編んだ手袋。昔の兵隊に支給されたこ

とから「軍手」というのか。今もスーパーでは20対を300円程度で使

い捨てとして売っている。庭仕事や野良、山、海その他あらゆる軽作業

の際、手指を守るのに欠かせない。冬には防寒用の手袋として使う人も

いる。しかし、軍手とはよくも言ったものである。

 

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  柚子風呂に心の修羅を沈めけり

           (東京都)有賀三奈子

  冬の寒さの中、一日をせかせかと働き詰めると、身も心もささくれ

出して、気持ちも荒れてすさんだ状態になる。こうした日の夕べか夜に

柚子を浮かべた風呂に浸かれば、ほっと心が安らいで、心の修羅が癒さ

れていく。

   猫柳壷中の命惚けたる 

        (姫路市)黒田千賀子

 銀の和毛に包まれて光る猫柳の枝を伐り、花瓶に挿して数日。しなや

かな銀の苞はいつのまにか、輝きを失い、はらりとほどけて初々しさを

なくしている。

 

  一握に百の命の種を蒔く

        (大阪市)田島もり

 春が来れば、ありとあらゆる草木の種蒔きの季来たるである。春蒔く

種を一握りすれば、「ああ、私はここに一握百の命を持つ。これから命

を蒔いてやらねば。」 

  

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  音といふ音封じ込め雪の朝

         (高松市)桑内 繭 

 今朝はばかに静かじゃないか、もしかしたら、と雨戸を繰れば、案の

定、外は銀世界、という経験をお持ちでは。やはり雪だったか、である。

 昔、英語で雪は音をマッフルmuffleする(消す、包み込む)と習った

ことを思い出す。首に巻くマフラーも車のエンジンのマフラーも何かを

緩和している。            

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          (2018.4.01)

                                                                                                                                                                                         



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380  泣かぬだけなお悲しきは少年の背負う弟死者なればなり [文芸(短歌・俳句) 時事]

 

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  随想コラム「目を光らせて」NO.380 朝日歌壇朝日俳壇」から

     歌壇 期 間 2018.2.04~ 2.26

  

  泣かぬだけなお悲しきは少年の背負う弟

   死者なればなり

     目

    朝日新聞 2018.2.19 (佐賀県)白武留康 作

 

              アオウ ヒコ

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  洋画家 青沼茜雲画伯  作品集から 43.「八女津媛」

        イギリス王立美術院名誉会員

        フランスサロン・・トンヌ会員

        ノーベルノルウエー財団認定作家     

        世界芸術遺産認定作家

        日展所属

                   

       「朝日歌壇・朝日俳壇から」 

 朝日新聞の歌壇・俳壇の入選作の中から最新の世相を鋭く切り取った

 作品を新た選び、コメントを付けています。コメントは文芸上の範

 を超えることがあります。

 作品の頭に印が付いている作品は、時の政権が推進る前のめり

 右傾化路線平和憲法を無視し、国会の存在をないがしろにするさま

 を危惧する市民の投稿になるものです。これらの作品は、ここでは個

 々の作品の文芸上の軽重を問うことなく、注目すべき最新の世相を凝

 縮した作品として、そのすべてを採録しています。 

  これらの作品に対しては、投稿者の真摯な叫びに読者の耳、素直に

 従うべしとして、コメントはつけておません。

  また、文中敬称は省略しております。(筆者

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    朝日歌 2018

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              蕗の薹                                                                                                                                                                 

 岩国の友は嘆けり米軍のための道路が出来タヌキ来と

             三原市岡田独甫

  アイライン引いてすずしい目元です笹啼きを追い垣を

   覗けば       松坂市)こやまはつみ

 鶯の初音がそろそろ、と思うまだ冬のある日、鶯のまだ整わぬ鳴き音

を耳にした。ジエッともジュッとも聞こえる、ちょうど人が何か気に入

時に舌先で、低く短く鳴らす「舌打」に似た撥音である。昔から日本の

風流人は鶯の初鳴きを「笹啼き」とも称し、珍重したものだ。鶯の完成

した啼き音とは程遠い未熟な音なのだが、この過程を経ないと成鳥のホ

ーホケキョの美声に到達できない。人は完成されたウグイスの啼き音を

称えるが、それに至る修練過程の笹啼きをも珍重し、何処で啼いている

かを確かめに近くの笹薮へ出かけたりする。作者も笹啼きをキャッチす

るなり、家の裏へ飛び出し笹啼きの鶯の姿を見つけようと目を凝らす。

 垣の向こうに、いましたねえ。円い目のまわりにアイラインを入れた

涼しい目元をした笹啼きの主が。

 私の一票が役に立てるなら行きて投じたし名護市長選          

             所沢市)風谷 螢

 ホスピスに友を見舞えば「待ってて」とアイスクリーム

 を買ひきて呉るる      

                           (横浜市) 坪沼 稔

  病を得た友人がホスピスにいる。見舞おうとするが、さて、どうい

う話題を持って行ったものかと、事前に三つ四つ考えていった。確かに

普通の病気見舞いとは違うから、それなりの配慮をしたこともあり、友

はことのほか喜んでくれた。「ちょっと待ってて」とにこやかにいうな

り、部屋から出て行きアイスクリームを手にして戻り「一緒に食べよう」

となった。氷菓を舐め舐め、二人で楽しい話題に興じた。「また来るよ」

彼は言った。「今日は楽しかった。ありがとう。一期一会をありがとう」

にこやかに固い握手。じゃ。                 

 新聞の紙子のぬくみを語りたる祖母を思えり雪の降る夜

              石川県瀧上裕幸

 今は防寒具も選り取り見取り、厳寒の極地やアルプスに行こうとも、

それなりの準備をしていけば、寒さに震えることはない。だが戦前の、

あるいはもっと昔には厳冬を過ごすに十分な衣類がなく、あれこれと苦

心したようだ。その一つに紙子がある。紙製の衣服である。紙子;厚紙

に柿渋を引き、乾かしたものを揉みやわらげ、露に曝して渋の匂いを取

って作った保温用の衣服。もとは律宗の僧が用いたが、のちには一般に

も用いられ、元禄の頃には遊里などでも流行した。(広辞苑)

 冬の防寒着に悩んだ日本民族が紙に柿渋を塗ってまでして作り上げた

紙子。それがフアッションにまでなった歴史を持つとは。

「おい、山に登って寒い時には、新聞紙一枚シャツの上に挟めば、相当

な効果があるぞ」と話してくれた父を思い出す。作者の祖母も同じこと

を言っている。紙子を新聞紙で作れ、とは言っていないようだ。

 

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   アザレア

  鷹匠の少女は父に伴われしんとしづかにその時をまつ

                     川崎市宇藤あおい

 おそらく鷹匠の父に伴われて、この鷹匠の少女は鷹狩の場へやってき

たに違いない。少女の腕を止まり木にして鷹が静かに止まっている。鷹

狩を前に、放鳥を待つしじまを歌う。少女の澄んだ目、鷹の鋭い眼、少

女を見守る慈愛に満ちた父の目。

 

  瞑れば天にとどけと耕しし半島のしろき冬畑の見ゆ

                    東京都)松本知子

 私の一生といえば、半島の斜面の原野を上へ上へと耕し続けたこと以

外にはない。今は立派な耕地となってわがものになっている。目を瞑れ

ばその冬畑が雪を冠ぶって白く見えてくる。これまでに至る懸命の開墾

作業の日々と私のいのちの日々が。

  鳥海山の裾野に橇を曳く馬の背に湯気立ち春が近づく

              (春日部市)阿部 功

 厳冬の期間中であれば、馬の背に湯気が立つことはなかった。だが、

ふと気づけば、橇を引く馬の背に湯気立ち昇る見ゆ、じゃないか。あゝ

春が近い。

  戦止まぬ国へと日輪めぐりゆき山の端暗き夕焼け残る

                 (八王子市)原田なつ子

 この地球どこかで人の命を奪う戦争が絶えず行なわれている。なぜに

そのような諍いが起きるのか。毎日、太陽は同じように日の出から日没

を繰り返している。私が住む地球のここでは、今、山の端が陰り、少し

夕焼けが残っている。なんという人の性。傍観していていいのか。

  七年の避難生活、借り上げの二間の物の隙間に辛く生く

                     いわき市)守岡和之

 

  新幹線トンネル抜けてただならぬ雪しまく野の奥へ奥へと

              (平塚市)石川桃瑪

 東北地方にも新幹線が開通して、冬季には雪の中を突っ走る姿が見られ

るようになった。一号車の先頭に座席を占めて、吹雪の中の突っ走りを体

感している。こんなにも雪しまく野の中へ走り込んで大丈夫ですかねと。

                     

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       朝日歌 201812

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                               まんさく

  えらそうな口の利き方する人はえらいんじゃなく

    えらそうなだけ       

                            (堺市)一条智美

 

  赤子抱き訪ね来し嫁はお母さん猫は土足ですよねと聞きぬ

               横浜市)小山房枝

 赤子は清潔な環境で育てねばなりません。不潔なものを部屋に入れた

りすることは困ります。という子育てのモットーを嫁はやんわりと母へ

申したことだった。それを聞いて双方の展開がどうなったか。

母;「猫は清潔だから、家へ入る時は足を舐めて綺麗にするから大丈夫」

嫁;「お母さんは孫が病気になっても構わぬ、とおっしゃるのね」

 この二つの主張が行きつくところ、不毛の極であることを、聡くも感

じ取った母はしかるべき処置を取らざるを得なかった、ようだ。

 

穏やかな住みたい街」に選ばれぬ伊方のリスク

   識らぬ人らに         (松山市)宇和上 正

 

  未練なく放って子らは巣立ちたり筆箱、マフラー、

   漫画、木刀        

                            (宗像市)巻 桔梗

 今の若者は巣立つに当たって、このようなやり方をするものか。放任

自在に育てた親の貌が見たいものだが、親は決して、怒ったりはしてい

ないようだ。却って残されたものに付随する思い出の片鱗を甘受し慈し

んでいる気配が濃厚。「まあ、そのうち、やってくるでしょうから」と

鷹揚なものである。

 

  水仙の丘に登れば風荒び軍艦島に白波高し

              小城市)福地由親

 嘗てこの孤島には鉱業関係の企業が立地し、高層団地が作ら

れ多くの住民が生活した。経済環境が変わると共に住民は去り

無人島に変貌した歴史を持つ。とおく水仙の丘から眺める軍艦

島は風が吹き荒れ白波が立っている。

                 

  ひっそりと君を抱けばセーターの編み込みビーズの

   冷たい拒絶      

                           (横浜市)岡田紀子

 この歌は不思議な歌。両性のいづれが歌っても成立するが、作者はど

うも女性らしい。み込みビーズのセーターを着用するのは男か女か。ど

ちらもありうるとなれば、冷たい拒絶に遭うのは両性のいずれもありう

る。両性ジェンダーが同じく両性ジェンダーの君を抱けばとなれば、こ

れまた不思議な拒絶に遭うらしく、より複雑な展開を考えねばならぬのか。

 

  「朽人」とふ由来悲しき口太山姥捨て伝説秘めて雪降る

             (高松市)島田章平

 「姨捨山」伝説は日本古来の悲しい物語。朽ちる人を言う「朽人」の

名負う口太山は朽ちた人を捨てに行く山との伝説を担う。ああ、その山

に雪が降る。人が居れば、嗚呼さぞや寒かろう、である。

                                          

 〈焼き場に立つ少年〉は歯を食いしばる耐えて堪えて

   生きるしかなかった  

                          (長岡京市)田原モト子

 米国のトルーマン大統領が命令した広島への原爆投下。核爆発の閃光

と共に広島住民は瞬時に焼け爛れて、大多数の市民が死に絶えた。米

関係機関による、原爆投下後の広島の惨状撮影の中に、小さな弟の亡

を負ぶって火葬場の端にスックと立つ少年の写真が〈焼き場に立つ少

年〉と題して公開され、全世界にショックを与えた。

 この歌はその少年の思いを歌にした。(弟は死んだ。僕は生き延びた。

まずは背の弟を焼いてあげねば。そのために順をまたねば!)その心を

思いやる歌である。

 広島を訪いしアイキャンの代表と会ふこともなし日本の

   首相        (牛久市)伊藤夏江

 

  情深き人となりけり若き日に我悩ませし子にてありしが

              (東京都)寺田知子

 情深い人とは具体的に何を指すのだろう。おそらく、歳老いた母が入

居した老人の家へ足繁く通い詰めてくれているのを指すのだろう。あり

がとう。今は若い日に母を悩ませた子ではありません。

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             朝日歌壇 2018.19

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     アザレア

 墨を磨るときにほのかに流れくる香りはしんと秘密めきたり

             奈良市)山添聖子

 書道を能くする人には覚えがあることだろう。ほのかに流れてくる墨

の香り。その香りは決して華々しくも肉感的でもない。しんと静まって

、知覚しうる人にだけそっと届けてくれる秘密めくかほりちゃん。

 

 米軍のヘリの脅威が北朝鮮のミサイルよりも恐い沖縄

             (三郷市)木村義煕

 かんじきを履いて跡追う雪原を腹を滑らせ猪泳ぐ

              新潟県涌井武徳

 猪追いのかんじきマタギの腕を知ればこそ、獰猛の猪は逃げる逃げる

白い広い雪原を腹を滑らすようにして逃げまくる。

 

 十津川村の雪は山々降り隠すひと来た跡もひとゆく先も

               (生駒市)辻岡瑛雄

 一度来てみやしゃんせ十津川村の雪の深さ。スケールが違うでしょ。

いくつもの山を降り隠し、人の動きの何もかも跡の全てを消して行く。

 

「アベ政治を許さない」人病みたまうアベ政治なお続く厳冬

              水戸市)中原千絵子

  兜太選休みの月曜ものたりぬ木の芽ふくらむ春待ち遠し

                倉吉市)谷本邦子

  兜太選がない月曜はさびしくものたりません。快癒されての春の

まちどおしいこと。              

 *泣かぬだけなお悲しきは少年の脊負う弟死者なればなり

             (佐賀県)白武留康

 本欄前掲:2月12日。〈焼き場に立つ少年〉を歌う別の作品。

  かの少年へ。あの写真を見て私が悲しいのは、あなたが泣かずに毅

然として立っている姿を見たからですが、もっと悲しいのはあなたが背

負っている弟さんが既に死んでいるからです。なんと痛ましいことかと。

 おしゃべりをしながら人は決めている話せることと

  話さないこと     (堺市)一條智美

 これはすべからく人体の脳の働き、仕組みのすばらしさ以外にない。

いかに早く会話しようと、この決りを逸脱することがない、というのが

本来の脳が持つ機能であるが、それは宜うとして、どんなにゆっくりと

話そうとも、このきまりからだらだらと、容易に逸脱する人もいるでは

ないか。これをどう見る?脳が弱いのか、訓練が不足しているのか。人

間の域、人格の保持に達していないのか。さて?   

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       朝日歌壇 2018..2

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                       アザレア

  見えぬとは怖きものなり近未来服も仮想になるかもしれず

             東久留米市)関沢由紀子

 国が保証する通貨の使い勝手が悪いとして、若気の至りの若者が仮想

 

通貨を流通させた。国はこの二重制度は認められないとして禁止し葬る

 

べきだったが、ゆるふんで推移させた。近未来の通貨の理想の影を持っ

 

ているから、と読んでのことだったか。案の定、その綻びはすぐに表れ

 

た。金融当局は大慌てで収拾策を講じている。言わぬこっちゃない。近

 

未来的な代物はどう転ぶかわからない。それは未経験のうえ先が見え

 

からである。またそういう御仁が当局にいる限り、この危険性は増大す

 

る。眉に唾をつけて、またつけて、対処せねばなるまい。素人や、もど

 

きはその眉も唾も効き目は薄い。危ういものや、ことにはすべからく近

 

寄ることなかれ、の教訓を忘れずに近未来に立ち合うことにしよう。

 

               

  ★「使える人」「使えない人」排除する人の賞味期限も短い

               室蘭市)佐々木 淳

 

  医師からの宣告受けても脳内に浮かんだ言葉はまじかの

   三文字        奈良市)渡辺春乃

 重病の患者に病気の宣告をする医者も大変な仕事だが、その宣告らし

 

きものを聞かされる患者もあはれである。頭に血がのぼり、自分の命が

 

まじかの三文字であることだけを覚えている。

 

 

  スマホ見る母に抱かれてその母を見上げる幼の何かを

   思う眼       

                           (横浜市)毛涯明子

 母に抱かれている幼子は母に何を期待しているのか。それは、自分を

見守る暖かなまなざしが注がれて、柔らかい笑顔で包んでくれているこ

とだろう。だが、子を抱く肝腎の母親が、スマホに夢中で、母を見上げ

る幼の眼にも気づかずにいれば、幼い子の柔らかい脳に刷り込まれる母

の像を思うべし。この子が育ち、未来の母になったとき、スマホ片手の

育児は当然、と思う母親になることは避けられないであろう。

 

  晩酌し三食きっちり食べる夫冬眠という手立てはないか

              (福岡市)永井祝子 

 日本は今や高齢者だらけ、というような状況にある。二人が揃う健康

所帯の他、すでにどちらかを亡くして一人住まいの老人も数多い。彼ら

が追憶してやまぬのは、かつて二人で共に過ごした幸せな日々。当たり

前のように過ごし、それぞれ不満もぶちまけた二人だけの生活。思えば、

なんと貴重な日々であったことか。後悔先に立たず、というが、夫冬眠

という手立てはないか、などと。まあ、共に晩酌、共に三食、共に冬眠

の粋を探られよ。そのうち判る。

 

  目閉じればとおいとおい日囁かれし<帯は解くもの>耳朶

    焔立つ        広島市)平加ミチコ

 これは、いつ思い返しても、古びれず、懐かしく、活き活きと追憶の

日が蘇える私の財産。あの日、それから、どのように展開して、今の私

がここにいるのでしょう。ほんとうに遠い昔に、あの囁きに抗しきれな

かったこの私。思うだけで耳たぶが燃え立ち、赤く染まります。

 

誤解など招きませんよその野次の発現趣旨はよくわかります             

                 (長野県)山口恒雄

わからなくなってきたのが日本語で真摯、寄り添う、謙虚、

 丁寧            (行方市)前野平八郎

解釈はたったひとつで九条を読めば誰でも解る九条

                 (東京都)東金吉一

黒々と兜太書く文字掲げられる国会の前声うねる頃

              (大分市)穴井香代子

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             (2018.3.15)

                   


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共通テーマ:日記・雑感

379  春待つや頼みの綱の兜太選 [文芸(短歌・俳句) 時事]

 

 

  随想コラム「目を光らせて」NO.379「朝日歌壇・朝日俳壇」から

 

 

       俳壇 期間:2018.1.8~1.29

 

  

       春待つや頼みの綱の兜太選

   

        :

        朝日新聞 2018.1.29下関市)内田恒生 作

               アオウ ヒコ 

      

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  洋画家 青沼茜雲 画伯 の作品集から。42.「飛形山と矢部川」2 

      ・イギリス王立美術院名誉会員

     ・フランス・サロン・・トンヌ会

      ・ノーベル ノルウエー財団認定作家     

      ・世界芸術遺産認定作家日展所属  

 

                            

        「朝日歌壇・朝日俳壇から」

  朝日新聞の歌壇・俳壇の入選作の中から最新の世相を鋭く切り取った

 

 作品を新た選び、コメントを付けています。コメントは文芸上の範を

 

 超えることがあります。

 

  作品の頭に印が付いている作品は、時の政権が推進る前のめり

 

 右傾化路線平和憲法を無視し、国会の存在をないがしろにするさまを

 

 危惧する市民の投稿になるものです。これらの作品は、ここでは個々の

 

 作品の文芸上の軽重を問うことなく、注目すべき最新の世相を凝縮した

 

 として、そのすべてを採録しています。

 

  これらの作品に対しては、投稿者の真摯な叫びに読者の耳、素直に

 

 うべしとしてコメントはつけておません。

 

  また、文中敬称は省略しております。(筆者)

               

 

      朝日俳壇 2018

                      

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       今春、埼玉県狭山市に降り積もった雪景色のいくつか   aou.hiko

 

 

  沖縄の虐げられる年惜しむ

       (福島県伊達町)佐藤 茂

 

  炎にも見えて選手の白き息  

             (藤岡市)飯塚柚花

 四季を通じて、運動選手は練習を欠かさない。特に冬季の戸外訓練と

あれば、ランニング中の選手が吐き出す息が瞬時に凍って白く見える。

 体躯を鍛えようとする意志を示すかのように白い炎が燃える。

 

  めでたさは妻柔らかなお正月 

           (三郷市)岡崎正宏

 百歳など何が目出度いものか、と著書の表題で啖呵を切った老女がい

たが、正月が来ると何か清新さが付随して、これを目出度いとするよう

だ。いつも、がみがみと噛みついてばかりの妻がこのお正月にはにこや

かに柔らかく立ち居振る舞いを見せる。あゝこれが目出度の一番よな。

 

  月渡る白神嶺々や除夜の鐘  

          (秋田市)松井憲一

 遠くに真白い雪を戴いた山嶺々を月が渡る。この静謐な今、一年の煩

悩を顧みる除夜の鐘の音が渡りゆく。まもなく新年へと切り替わる。

 

 若狭には原子炉多し虎落笛  

          (調布市)川井政子

 ★帰り花今がこんなに大事とは 

             (長野市)鈴木しどみ       

  凍空や一滴蛇口はなれずに   

       (栃木県壬生町)あらゐひとし

 水道の蛇口から滴一滴と水漏れがしていた。今夜は冷える、凍り付く

と水道凍結予報が出ていた。蛇口を保温されたい、とも言っていた。何

 時ごろ水滴が凍ってしまったのか、最後の水滴は滴り落ちたかったのか

 蛇口の先端で凍って留まる最後の水滴になりたかったのか。                                                   

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   人いつか還る虚空に銀杏舞ふ   

           (鹿児島市)青野迦葉

  冬真っ只中。人は有限、いつかはあの虚空に帰りゆく定めである。そ

 の虚空への舞を毎冬繰り返す植物群像。その代表がその梢の先端を人に

見せないで成長し続ける公孫樹。今年も虚空に銀杏の黄葉が舞うころに

 なった。吾はまだこの世に命あって、この儀式を眺めている。                                

   凍むといふ言葉に故郷尽されし   

               (長野市)縣 展子

  とにかく「凍む」んですわ。わたしが住む故郷、長野県長野市の冬。

 四季を通じて環境抜群、温泉、住人、文化に恵まれ、吾が愛してやま

 ぬ故郷長野。すばらしい。ですがねえ、冬は「凍む」んです。これは

 本当に辛い。苛しい。でも、これあればこそ優れた長野であるかも。


  初富士や嫁ぐ娘と上京す      

         (小城市)福地子道

  東京で挙式するために娘さんを帯同して上京している。空路か新幹

 線でか、どちらでもいいが下から仰いだ青空を背景にした初富士が晴 

れの盛儀に相応しいか。婚儀による親子の別住みを前にゆっくりと時

 間を取って、これまでの親子の来し方を確かめ合うことも必要だろう。

 次に二人が会うのは孫が生まれた時であろうか。慶事が続きますね。

 

   積もりゆく雪よ減りゆく吾が時よ   

              (青森市)小山内豊彦 

 青森だと冬は雪が積もるのは当たり前、さして珍しくはない。今年は

 全国的に寒威きびしく、滅多に雪が降らない東京でも10センチを越す 

積雪があった。住んでいる土地が違おうとも、降る雪を見詰めていれば 

その感慨はおのづから等しい想いに囚われてゆくことであろう。雪が降

り次第に積る。そのために相応の時間がかかる。一方、残された吾の持

ち時間は限られており、積雪に要した時間を徒らに長目しておれば、そ

 の分が差し引かれて減ってゆく。

                                                      

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  切り分けし聖菓に星の一つづつ   

           (横須賀市)式部洋子 

 クリスマスが来ると、日本の家庭では、ほぼ習慣的にクリスマスケー

キを贖いこの日を祝う。子供がいる家庭では、これに関するサンターク

ロースの役割も必要とされる。イヴの夕クリスマスケーキを提げて家に

帰らない父親は子供から總スカンされ、怨嗟の目で見られる。

 さて、次はケーキへのナイフ入れである。この日父がもたらした円形 

のXmasケーキをいくつに分けるか、これはママの裁量の分野である

が、5等分に切り分けられたケーキにはそれぞれが一つづつ鎮座して

いる(これは予めいくつに切り分けるかをケーキ屋さんに知らせておく

必要がある)星の数などいくつでも、あってもなくても構わぬとはいう

ものの。

 ★沖縄や窓も落ちくる冬の空     

          (熊本市)野中敬正

 

  湯豆腐や八十路の先をおもひをり   

             (嬉野市)秋山和江

 八十歳を越えれば、おそらく歯が使い物にならぬかもしれぬと、と杞

憂してのことであろう。そこで、この湯豆腐はいいねえ、柔らかくて、 

なんといっても食べやすいし、栄養もある。毎日がこれでもいいやね、

鍋仕立てにしてもいいし、と先々のことを思っている。歯は大事だ。

 

  この旅の一句心に冬ぬくし   

         (伊万里市)田中南獄

 旅に出た。旅先で俳句を詠んで、今度こそ傑作をものにするぞと、

念じて出かけ、幾つかの作品をものにした。その中にとりわけ、これは

いいぞとする一句が出来申した。この句を得たとする心の想いでこの冬

の温いこと、かぎりなし。

 

  雲流れゆく大雪野果つるまで   

           (北見市)藤瀬正美

 雄大な雪原に来て、自然の景観に身を任している。空を見上げれば、 

雲が悠然と流れて、大雪野の果てる先まで行く様子。私以外誰もいない

雪野の景観をあなたにも伝えたい。

 

       朝日俳壇 2018.1.15                  

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                                  ■

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   

  たなごころ卵一つの淑気かな  

           (彦根市)阿知波裕子

 家で鶏飼っておられるのか。鶏舎に入り生みたての卵を一つ掌に取

 

り外に出る。まだうっすらと暖かいたなごころの卵ひとつ。おりしも、

 

新年の朝である。掌の卵から新年を寿ぐ目出度い気配が立ち昇る。

 

 

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   

  夫と吾のほかは芥や煤払い

            

       (北海道鹿追町)高橋とも子

 

 年末恒例の煤払い。一年間に溜った塵芥を除きさっぱりとする行事。

 

思うにですね。家の中にあるものはすべてガラクタ、塵芥。大切で手放

 

せないのは夫と私の二つだけよ。

 

 そうです。この二つを大切にしておればもう何が起きても大丈夫。も

 

っともっと断捨離に励んでやってください。ただ、ガラクタは我楽多と

 

いう当て字があるように、これを芥扱いにすれば、楽しみの元が消失

という事態になりはせぬかと杞憂しつかまつる。

                                                                           

             

 

 

  枯れ葦や枯れの盛りの音枯るる

 

            (高槻市)山岡 猛

 

 春夏を緑の精気で覆った葦も、秋から冬にかけてはヴィヴァルデイの

冬の趣を象徴する枯れ葦となり、風が吹けば枯れ葦が触れ合うかさこそ

の合唱となるが、冬の終わりにはそのかさこそが絶えて静寂の世界とな

る。これ以上の枯れはない厳冬がしばらくは続く。

 

  羽搏きて白鳥湖のほむらなす

 

           (諏訪市)矢崎義人

 

 

 湖に渡ってきた白鳥が静かに水面に浮かぶさまは、清澄そのもの。湖

 

の冬景色の点景として人に愛される。この白鳥、静謐裡に湖面を滑りい

 

るかと思えば、急に伸び上り、両翼を忙しく羽ばたく場面に出くわす。

 

両翼の躍動に連れて湖面の水が跳ね上がり細かい水滴の飛沫が水のほむ

 

ら(焔)となって立ち昇る。白鳥は羽ばたきを止め、双翼を脇に収める。

 

水炎は収まり白鳥は清楚な姿へと立ち戻る。

 

 

  生涯を漁師に生きて初明り

 

          (奈良市)田村英一

 

 

 今までの生涯を永らく漁師として生きてきた。人よりも早く起き、暗

 

いうちから、海に出る日常である。だが今日は特別。元日である。

 

 舟を沖へ走らす途上に、東雲(しののめ)に出会い、初明かり(元日

 

のあけぼのの光)に出会った。いつも出会うその日の始まりではあるが

 

漁師として生きてきたからこそ、この神聖な初日の出を秘かに享受でき

 

るとの思いが去来して已まない。

 

 

 

  冬夕焼はやも一番星光る

 

         (熊本市)内藤悦子

 

  

 秋の日のつるべ落としとして、日暮れの早いことを嘆いたのはつい先

 

だってのことだったが、冬深み行くこの頃、夕焼けがしたかと思うと彼

 

方の低い空には既に一番星が光って見えるじゃないか。間もなく長い冬

 

の夜が終焉し、温かい春の兆しが見え始める。もうしばらくの辛抱です。

 

 

             ■

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         つづく NO.379-2





                                                                                                                                                                                      


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379-2  闇汁やほくそ笑みつつ消す灯 [文芸(短歌・俳句) 時事]

 

 

 

  随想コラム「目を光らせて」NO.379-2「朝日歌壇・朝日俳壇」から

 

 

       俳壇 期間:2018.1.22~1.29

 

 

       闇汁やほくそ笑みつつ消す灯

 

 

     2018.1.29 (横浜市)小川龍雄 作

 

 

                                                                                                                                                                                                                                                               

                                                                                                    

       朝日俳壇 2018.1.22

                                                        

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             咲遅れていた山茶花が雪に撫でられた   aou. hiko

 

 

 

   冬満月吾ら地上を離れざる

 

           (秩父市)朝賀信太郎

 

 

 冬の満月の光に照らされた地球の美しさを御覧じたか。皓皓と地球の

 

隅々まで隈なく照らし出す月の光。満月を見ながら改めて思う。たとえ

 

何があろうと、吾らはこの地上を後にすることはない、できない。これ

 

は地球に住む吾らの確信というべき高みに昇華した吾らの結論であり、

 

決心である。

 

 

     雛市に娘を思ふ妻思ふ

             

                   (横浜市)米宮正

 

 

 春になると雛人形や雛祭りの調度を売る市が立つ。私も妻を娶り、娘

を設けた。雛祭りの五段飾りを求め、以来、三月の雛の節句が来るたび

わが家では親娘で雛段飾りを飾り付けて、菱餅、桃の花、白酒を供えて

娘の成長を共に祝った。このまま順風満帆、幸せが続くはずだった。

 だが、あのときからわが家には雛祭りの主体が突然いなくなった。残

されたのは私一人。その悲痛たるや。

 毎年、春の雛市が立つと、その日のことを思い出す。娘を思ふ妻思ふ

その心は切羽づまって痛恨の極みである。

 

      数の子を噛めば昭和の音がする

              (知多市)田上義則

 正月のおせち料理に欠かせないのは数の子であろう。数の子:鰊の卵

巣を乾燥または塩漬けにした食品。水に浸して戻し醤油などをかけて食

する。(広辞苑)

 私は第2次世界大戦の戦前、戦中、戦後を通じて生きてきたが、正月

には必ず数の子を食してきた。現在の市販の数の子は塩漬けした製品で

かなり塩分大の製品に仕立てられているので、水に漬けて塩分を抜く必

要がある。この作業は大変にデリケートな工程を要するので、ただ、水

に漬けておけばいい、というものではない。最終工程では五分刻み一分

刻みで塩分抜きの調整をこなす必要がある。完全に塩分が抜けてしまえ

ば、索漠たる味になって数の子の風味と味を損なってしまう。

 さて、昭和初期の数の子はほとんどが「乾燥数の子」で、塩分抜きの

必要がなく、値段も安く、家庭では「肝ぎもと」調達してくるから、正

月前の納戸には大きめの壺に味付け後の数の子が早々と仕上がることに

なる。祖母の目を盗んでは、度々、この数の子の試食に成功したことだ

った。「数の子を噛めば昭和の音がする」というのとは少しちがうかな、

とは思いつつも。

 

  初旅や富士玲瓏の日和得て

            (千葉市)谷川進治

 正月早々に富士山の見える旅に相応しいのは陸路、新幹線の旅であろ

う。せっかくの旅が雪や雨に祟られると気分台無しとなる。よかったで

すね。目指す富士山が玲瓏のたたずまいを見せてくれた日和に恵まれて

言うことなし。幸先良し、ではありませんか。

 

 無の我を人呼び留めし御慶かな

           (船橋市)斉木直哉

 誰に出会っても、特にどうするともない、無に近い心の位相のまま、

外へ出た。そこへ近くの人なのか、我に近寄ってきて、「明けましてお

めでとうございます」という。そうだ、今日は元旦なのだ。御慶を投げ

掛けられたら、こちらも御慶の運気を返さねばなるまい。目出度いのだ。

御慶御慶で、めでためでたと。

 

     若水や水の地球の力水

         (川崎市) 多田 敬

 若水とは元旦の朝、初めて汲む水のこと。昔は井戸から水を汲み上げ

ていたから、その水には一年を通して邪気を払う効能があると信じられ

た。今は家庭の水源は上水道の蛇口である。この水をもって邪気を払う

効能ありと説いても、気分が納得しないので、この風習は廃れた。

 しかし、元日の朝、井戸から汲み上げた若水を、水の惑星と呼ばれる

地球の深奥部から得られた力水ですぞと説かれたら、水惑星にいのちを

得た人の子孫は「ハイ、ぜひ飲ませて下さい」と手を上げることだろう。

 

    大寒や庭を眺めて住まひけり

            (岐阜市)阿部恭久

 今年の冬は寒さが続く。どこもここも雪が積もり、庭にも根雪が残る。

暦の上では大寒。外に出ようもない冬真っ只中である。外との接点は庭

である。庭の植木の芽だしもそろそろかと気にしながら終日庭を眺めて

過ごしている。

          

     朝日俳壇 2018.1.29    

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      闇汁やほくそ笑みつつ消す灯

             (横浜市)小川龍雄

 闇汁;冬などに、各自おもいおもいに持ち寄った食物を、灯を消した

中で鍋で煮て食べる遊び(広辞苑)。現実にこうした闇汁の会に出たこと

がないので、こうした遊びがあること自体に吃驚。この歌の時点は各人

が持ち寄った食材を出し合うところのようであり、さあ、鍋で煮始めま

すよ、灯を消しますよ、と幹事役がほくそ笑みしながら開宴を告げる場

面である。この会は、後刻、毒汁を食わして悪事の疎明をなすような会

ではないため、闇汁を食した仲間がどうなるのか、どう転ぶのか、いま

から楽しみだ、程度のことをやや大仰に勿体ぶった表現にしている。あ

れによく効く食材をいくつも仕入れてありますからね、諸兄の今宵の奮

闘ぶりが楽しみですよ程度のことだろう。他に季語;闇鍋、闇の夜汁。

    凩に耐へし冬薔薇剪らず置く

            (西宮市)竹田憲治

 凩のふくころ、四季咲きの薔薇のうち、冬にも残って花をつける品種

がある。ちょうどそのころは花の端境期とあって、あの薔薇を切り花に

するかとの思いが起きるが、あの冬薔薇いままで凩に耐えてきた薔薇だ。

剪らずにそのままにしておこう。

 

    添書に想ひの深き賀状かな 

 

           (奈良市)田村英一

 

 

 パソコン印刷の年賀はがきが主流を占める昨今であるが、中にはそれ

 

に添書された賀状がいくつか混じる。それなりの時間をかけて綴られた

 

近況には、読めば読むほど思いの深い賀状であることに気付く。

 

 

 

  これからも感謝で暮らす冬薔薇

 

         (北海道音更町)信清愛子

 

 

 北海道では薔薇が咲き初めるのは五月の終りあたりか、以来薔薇の盛

期をへて、秋の薔薇は深い色合いをみせ、冬が来て雪が舞う中にも、咲

いてくれる薔薇があり、これを冬薔薇と呼ぶ。この冬薔薇へは冬中、感

謝感謝で暮らすことになる。

 

    高々と光求めて凧いかのぼり             

            (仙台市)柿坂伸子

 たこたこと囃す凧あげ。程よい風に恵まれると、凧は高々と上

を目指して昇る。ある程度高く上昇した凧は、下から見上げると、自ら

もっと上段の光を求めて昇るようだ。               

    大寒の全く以て一軒家

         (岐阜市)阿部恭久 

 とにかく冬のピークともいうべき大寒になると、雪に囲まれ封じられ

ることも多く、零下の気温に包まれるので、外出はしないし、訪問客も

ない。町には戸建ての家が多いのだが、どの家も同じように交流が皆無

なため、全く以っての一軒家となってしまうのだ。                               

          

  春待つや頼みの綱の兜太選

          (下関市)内田恒生

 短歌や俳句の登竜門の趣がある朝日歌壇及び俳壇。朝日が委嘱した歌

人・俳人がそれぞれ四人が投稿作品の選考に当たる。週一回金曜日、本

社会議室に集まり、毎週五千と言われる投稿作品の選考に従事する。選

者は全員がすべての投稿作品に目を通し、それぞれ十首、十句を選ぶ。

その結果は翌週の月曜日朝刊に掲載される運びである。

 毎週月曜日の朝日新聞の朝刊を家の玄関先で待ち受ける延べ5千人の

姿がある。彼らは配達された新聞を手に、開いた新聞から、吾が名と

作品がほろりとほころび、さくら咲く、であるときの喜びを期待し、

そうでないときは新たな挑戦に立ち向かうのである。

 こうした日本中の歌、句作に勤しむ大集団を背景に、専門の歌人・

俳人組織のそれに伍して、勝るとも劣らぬ作品が毎週提示されることに

なる。

                

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 毎週の選考会で入選作となる作品数は歌壇、俳壇それぞれ五十詩歌で

あり、篩い落とされる数が圧倒的に多い。当ブログでははからずも、こ

れらの俊秀作を対象にして、数を絞るのであるから、朝日では入ったの

に「目を光らせて」では落ちた、となるのはやむを得ない。朝日のすべ

ての入選作には敬意を表しつつ、ここでも一段、泣き泣きの薙刀を振る

っての善処に勤しむことである。                

 その選考(善処)に当たっては、初手から朝日の選考委員の存在には

目をくれず、玄人はだしの入選者の名前にも拘泥せず、目に入れるのは

作品の内容一本に絞っての選考である。ただ、本ブログでは印をつけ

た作品はすべて本欄採録としているので、このジャンル以外の入選作に

とっては、それは甘いと言われるかもしれない。

 

      惜別 俳人 金子兜太 

               

 さて,2018.2.20といえば、この日、東京ドームで国際らん

展が冬空のもとで行われていた。そろそろ春の息吹が感じられるこの日

、俳人金子兜太が98歳、急性呼吸促迫症候群で死去した。過呼吸症状

に陥った時にビニール袋を頭から被せて炭酸ガス濃度を上げて症状を抑

えるという処置もあるが、と一瞬思い、高齢であられたから、そうも簡

単にはいかなかっただろうと逝去を悼み、その才能を惜しんだ。朝日俳

壇を通じて一目も二目も三目も置く俳人であったからだ。その夜からメ

デイアから、兜太死去を悼むほゞ同じ惜別の記事が陸続と続いた。

 金子兜太が朝日俳壇の選者を務め始めたのが1987年、その金子兜

太が最後選考の最後になったのは2018.1.08付の朝日俳壇である。この

間ほゞ30年、年齢を深めるにつれて、長老としても大なな力をつけ、

多くの門下生、就中、朝日歌壇の読者に、その深読みの鋭さで追従を許

さぬ選者として慕われた。一見、意味が取れぬ句に、深甚な思いが込め

られている事の指摘の数々、他の選者には及びもつかないことだった。

 病を得て、選者としての作業がままならず、朝日俳壇の仕事は一月八

日付で終了する。奇しくもこの日は昨17年の入選句から「俳壇賞」の

発表がなされた日で、兜太は「金子選」として福島にもどれぬひとと雁

供養(相馬市)根岸浩一 を択んでいる。

 

 翌週1月15日に朝日俳壇の選者数は一人減って3人となり、現在で

は一人13句、計三十九句選出体制となった。朝日は金子選者の入院に

ついては特別な記事は載せなかったようだが、月末辺りには知れ渡った

と見え、朝日俳壇の支持者からの見舞いが殺到したと聞く。一月二十九

日の俳壇に、H選者担当の十三句目に、本ブログヘッドの句「春待つや

頼みの綱の兜太選」(内田恒生)があり、選者の言葉に「兜太復帰を願

う句あまた。その一句。」とあるのが兜太の病状を伝え、寄せられた病

見舞いの句は「先生早く良くなって下さい。春ごろまでには本復なさ

るようにお願い致します。われらの句をひっかけて日の目を見せて下さ

るのは兜太先生以外にはありませんから。」とある。                  

  もう返事のありようはない。

 それでは兜太先生が常々門下生や弟子に伝えていた言葉の端々をいく

つか、連ねて、それにかえましょう。

 

1.自然詠もいいが社会性のある句も詠みましょう。

2.季語も大切だが季語のない無季語の句も詠みましょう。

3.アベ政治をゆるさず、平和への思いをつらぬきましょう。

4.一緒にいて気持ちのいい人になりなさい。

5.自由に句を作ってください。

6.「少年よ、包茎は手術すべし。」

7.観念的な句を考えなさい。

8.自分を「存在者」と定義せよ。人は戦争で犬死したりせず、

何もしなくても生きながらえることだけで尊い。

                              

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             よく眠る夢の枯野が青むまで   金子兜太

 

    

                                     (2018.3.1)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               


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378 くら谷へ地響き立てて傾れ落つ奈落の底に呻く雪魂* [文芸(短歌・俳句) 時事]

   随想コラム「目を光らせて」NO.378 朝日歌壇朝日俳壇」から


      歌壇 期間 2018.1.08~ 1.29

 

  くら谷へ地響き立てて傾れ落つ奈落の底に

    呻く雪魂

 

      目

   朝日新聞 2018.1.29 (新発田市)北條祐史氏 作

 

                                  アオウ ヒコ 

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       洋画家 青沼茜雲画伯 作品集から 41.「飛形山と矢部川」

            イギリス王立美術院名誉会員

         フランスサロン・・トンヌ会員

         ノーベルノルウエー財団認定作家     

         世界芸術遺産認定作家・日展所属

                   

       「朝日歌壇・朝日俳壇から」 

  朝日新聞の歌壇・俳壇の入選作の中から最新の世相を鋭く切取った

 作品を新た選び、コメントを付けています。コメントは文芸上の範

 を超えることがあります。

 作品の頭に印が付いている作品は、時の政権が推進る前のめり

 右傾化路線平和憲法を無視し、国会の存在をないがしろにするさま

 を危惧する市民の投稿になるものです。これらの作品は、ここでは個

 々の作品の文芸上の軽重を問うことなく、注目すべき最新の世相を凝

 縮した作品として、そのすべてを採録しています。 

  これらの作品に対しては、投稿者の真摯な叫びに読者の耳、素直に

 従うべしとしてコメントはつけておません。

  また、文中敬称は省略しております。(筆者

 

       朝日歌 2018.108

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  九十のわれひとり歌う子守唄母に会いたしあの頃の母に

                東京都)伊藤千代子

 齢九十、堂々たる人生である。この間、多くの子や孫、もしかすると

曾孫までを腕に抱いて子守歌を歌われたてきたのかもしれない。いま、

ベッドで一人、子守歌を小さく口ずさんでいる。ふと思う、私がわらべ

の頃、母が私に歌ってくれた子守歌。ああ、あの頃の母に会いたい。懐

かしいあの歌声、お母さんに会いたい。

イスラエルパレスチナはたエルサレム地球の黒点神とは何か 

                  (福岡市)南川光司

 古希近き妻がピアノを習ふとき面輪に少女の瞳が光る

                  (高崎市)宮原義夫

 間もなく七十の歳を迎える妻が、ピアノを習うと言い出して鍵盤の前

に座る。傍に先生が座って、何くれと指導して下さる。それをじっと聞

く妻の貌には、少女が少しでも上達したいとピアノに懸命に向かうとき

 

 晴ればれと「離婚したよ」と笑ふ友「バツイチじゃなく

  ルイチ」といふ      (延岡市)片伯部りつ子

 目出度く結婚した友が、なにがあったか知らぬが、離婚したよ、と晴

ればれの報せを呉れた。人生の過程で引け目を負う「バツイチ」じゃな

く勝利の印「マルイチ」ですよ、と念を押す。勝利を手に入れるまでの

過程を訊こうとは思わない。でも訊いてやった。「あなたねえ、マルい

くつまでやるつもり?」

 移植して枯死するごとく晩年に古巣離れて逝く人多し

               (高松市)菰渕 昭

 植物に例をとれば、沈丁花は移植に弱い。だから、一旦植えたからに

は、その場所を動かさないほうがいい。故郷の土地に長い期間棲みつい

た人が、老年期に子供に呼ばれて都会のマンション住まいをするように

なると、大体老い先は短くなる。環境の激変への対応力が極端に弱っていくからで

あろう。体の動く間は古巣に籠りおるのが一番のようです。

              

十二月八日思へば沸きかへる今の平壌どこか似ている

                 (高松市)島田章平

被爆国口を閉ざすも被爆者は世界に向けて口を開きぬ

                 (横浜市)村田 卓

虐待で失われたる命にもきらきらネーム燦として有り

                 (土浦市)佐藤由美子

   朝日歌 201815

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 ★ヘリの窓落とす程度の軍隊が駐留をして又も沖縄

                (川崎市)小島 敦

 エジプトに駱駝の背に乗る亡夫の写真その二年後を

 知らない笑顔       (能代市)中村弘子

  エプトに旅行して、あの駱駝の背に乗りませんか、と勧められた

ら、日本に居れば出来ぬことだし、一生の記念にもなるからとして、背

に跨り、破顔一笑の姿を同行の妻(私は乗らずこの写真を撮った)に見

せたことだった。あの時の彼、まさか2年後に身罷るなど露ほども思

なかっただろう。きゃっきゃっとはしゃぐ笑顔を、これまたポーズ付け

までして撮ったこの私。二年後を知らなかったのは彼だけではない。私

もそうだった。

 あの気迫あの速攻を観ることも叶わずなりぬああ日馬富士

                 (舞鶴市)吉富憲治

 横綱の日馬富士の取り口の速さを良しとするフアンがここにもいた。

張手専門の逃げ横綱某とは違って、生一本の速攻を旨とした男が、酒の

上とはいえ、暴力を振るい退陣に追い込まれようとは。惜しいなあ、と

する根っからの相撲好き。

 俗にいう相撲四十八手とは相撲の決り手の総称であるが、江戸中期に

相撲のルールが整備され、その後技の名称の数は細かく増え、1960年に

は日本相撲協会がこれを70手に整理した(広辞苑)。 

 現在、実際に使われるのはこの内の40手ぐらいだという。相撲の手

の数も世の流れや好みの移り変わりによる変遷があったとすれば、モン

ゴル力士が増えて増加した荒っぽい相撲道を矯正するために、相撲の手

にメスを入れることはどうか。「張り手」「かちあげ」を禁じ手に。

た、土俵での立会で二つのこぶしを確実に土俵に付けなかった力士

けとする厳格ルール徹底。日本相撲協会も、詰まらぬ内部抗争に憂き

身を窶すよりも相撲道のルールを改定する努力が必要だろう。

 サーローさん核は絶対悪と説く心の叫びに会場総立ち

                 (名古屋市)諏訪兼位           

 美智子妃の思いは深し広き視野ICANの受賞を祝い給えり

                 (長岡京市)田原モト子

 美智子妃は昨年10月20日、83歳の誕生日を迎えられ誕生日に

当たり、1年を振り返りながら文書を寄せられた。その中で今年のノー

ベル平和賞に核兵器の廃絶を目指して活動する国際NGO「ICAN」

が選ばれたことを挙げておられる。

「核兵器の問題に関し、日本の立場は複雑ですが、本当に長いながい年

月にわたる広島、長崎の被爆者たちの努力により、核兵器の非人道性、

ひとたび使用された場合の恐るべき結果等にようやく世界の目が向けら

れたことには大きな意義があったと思います」と述べられた。

 そのうえで「日本の被爆者の心が、決して戦いの連鎖を作る『報復』

にではなく、常に将来の平和の希求へと向けられてきたことに、世界の

目が注がれることを願っています」と記され

 作者は何かの報道でこの文章、もしくは歌に接したのであろうか。皇

室への思いはさまざまであろうが、皇后が思慮深く視野広きお人柄であ

ることに心からの信頼を寄せ、ほっと安らぐものがあったのであろう。

 冬の海流れつきたる難破船かかる日見むとは思はざりけむ

             (高松市)島田章平

 出漁する前に船長はこう言われたのではないか。「冬の漁は少々沖へ

出なければ豊漁は望めない。その木造漁船で目いっぱい燃料も積んで

おくので、当局のために頑張ってもらいた戻ってきたらいい目にあ

うぞ。いいな!」。アメとムチで幹部にノルマを言い渡されたのはいい

が、沖に出ると、確かに魚影は濃かったが、海流が悪く沖へ沖へと流さ

れつづけ、そのうち燃料は尽きて後は風任せの難破船の漂流。いつの間

にか、母国が敵対するジパングに漂着してしまいましたがな。木造船は

ボロボロになっており、日本沿岸の岩礁に打ち付けられて沈没したのも

あった。「おお、こんな船でよくもまあ、とほとんどの日本人は呆れ果

てたことだった。

 ★親指で隠れてしまう双葉町フレコンバッグ山と積まれぬ

                 (二本松市)開発懬和                           

 ホットワインのカップで両手暖める流星と私だけの忘年会

                  (東京都)上田結香

 天文学に関心がある人が見逃がせぬ日の一つに、「流星頻発の夜」が

ある。空を見上げることが好きな人はこの夜を待ち侘びる。なぜなら、

この夜限られた時間内に沖天の頂あたりから、良く光る流星が西空の端

を目指して、すうっと流れ落ちるからだ。手にしたホットワインのカッ

プの暖かさを両手で慈しみながら、消えてゆく星の光芒の行方に思いを

馳せるのだ。なんと床しき私だけの忘年会であることか。いくつもいく

つも、適当な間隔で、飽きもせずに流れてくれる流星の夜は、寒さも忘

れて、「あ、墜ちた、また落ちた」と声を上げるが、ふしぎと「流れた

よ」とは言わないようだ。また、その夜にいくつ流れたかを勘定するこ

ともない。適当な間隔で流れ星が宇宙の片隅に落ちてくれることにただ

ただ満足している不思議な夜である。

 通と飲む酒は一番うまい酒酒は二人で飲むべかりけり

                  (町田市)高梨守道

 酒や酒席を詠じた和歌や俳句には事欠かないが、その極は「酒は一人

で静かに飲むべかりける」となるようだ。否違うねえ、他人ともども飲

む酒が賑やかでいいよ、とする親多数派かと思ったら、この歌では必要

条件として「通」を提唱している。ここで言う「通」とは酒に関する諸

々に通暁している人のことである。流石にこの人が勧める酒は味覚の点

でまず美味しい。彼がこの酒は旨いといえば、そのままうまい酒であり、

二人で交わす話もおのずから楽しい話となる。

 まず、通の酒飲みを探せ、そしたら旨い酒も飲めるし、すべてが心地

よい酒席に通じる、としている。貴殿、酒の「通」をお持ちや?                                                                                                                        

        朝日歌壇 2018.1.22

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 火口湖の凍湖を渡アイゼンの刻む足音朝日に光る

              (小城市)福地由親

 この風景の中を、自らアイゼンを着けて踏破中の実況なのか、TV映

像の紹介なのか。いずれにしても、早朝の朝日射す凍湖の上をアイゼン

の音を刻みながら歩く姿のすばらしさ。行動しながらの自然詠もここま

で来れば、玄人はだしであろうか。

 諏訪湖:長野県諏訪盆地の中央にある断層湖というから、火山湖では

ないようだが、この湖も厳寒季には全面結氷して凍湖となり、その極の

時点では氷の中央部に氷の割れ目ができて盛り上がる現象(御神渡「お

みわたり」)が見られる。この時期、早朝にアイゼンを付けて参拝行を

すれば、御神渡りの氷盛上りの亀裂が朝日に燦然と輝く姿を拝めること

であろう。

 日常に辺野古は続く座り込み五〇〇〇日となる二六日

               (日野市)太田はるか

 インスタを始めて知った人は皆こんなに空が好きだった

                (浜松市)加茂智子

 インスタという言葉は、スマホのカメラ性能が一段と向上し、しかも

その作品の投稿をWEBの窓口が受け付けるとあって、日常生活の様々

な局面を切り取った写真の投稿ブームが起きている。如何にしてインス

タ映えする写真を撮るかが鍵だとあって、背景にもいろいろと趣向が凝

らされている。インスタ映え、という新語もできたようだ。このインス

タという言葉、installation が語源のようだが、多くは instantから

来ているとの思いから、お手軽な写真術として迎えられているようだ。

 この歌の作者もインスタ作品の背景に青空が使われているケースが多

いのを発見。青空のブルーは美しい。手軽に撮れるし、白い雲も浮かべ

てくれるし、いいわね、と。

  雪国の雪は憎まれ疎まれて雪の白さを愛でる人無し

                 (新庄市)三浦大三

 積雪も10~30センチくらいなら、可愛げがあって、大人屋根の雪

降ろしはまだいいな、と言い、子供は雪だるまを作ろうと、犬ともども

に走り回る。これが1mを超え、2メートルを越えるようになると、も

う、雪は憎まれ疎まれ、純白の白はいいね、などと言う人もない。

 ★被爆者が自身を晒して語り継ぐ「絶対悪」の証人として               

                  (三鷹市)山室咲子

 あの午後の「付いて来るか」のひと言に付いて来られて早

  五十年           (駒ケ根市)伊藤邦彦

 すでに五十年も過ぎているから、今更戻りもすまい、と夫は高を括っ

ているようですね。では私も、あの日のことを少しばかり。

「もう帰るんですか。まだいいじゃありませんか」と必死な面持ちで

した。あの時の私「そうですね、あと5,6分なら」とすげなく答え

ると慌てましたね。「あなたは私の唯一の、最後の人です。私の全て

を賭けてあなたを大切にします。なんでもあなたの言うことを聞きま

すから、ぜひぜひ私に付いてきて下さい。お願いです!」とひれ伏し

たのです。しょうがない人と思いました。口説くならもっとロマンチ

ックにおやりよ、と思いましたが、当の私も他に当てもなく、仕方な

く「付いてきてやった」のです。「よくもまあ、五十年も保ったこと

ですよ。それになんですか今日のあんたの威張りよう。付いて来られ

て早五十年。迷惑至極の年月じゃったぞなんて、よく言う面の皮。

黙っていれば付け上がりやがって。恥ずかしげもなく。いい年こい

て。なあ、おぬし。

      朝日歌壇 2018.1.29

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  ★語らない美学などないと思うなり世界にあまたもの言えぬ国        

                 (水戸市)中原千絵

 吾老いて母は尚老いゆるゆると同じ問答繰り返す午後

                 (船橋市)押田久美子

 介護する人が老境を迎え、介護される母は尚更歳をとるという老老介

 

護の重層社会。二人が発する問答はゆるゆると、昨日も今日も同じ問答

 

を繰り返す日々。せめて、それぞれの日を心豊かに、問答も心楽しく。

 

               

シリアの子パレスチナの子ロヒンギァの子らを思えど

  歌作りえず        (松戸市)渡辺道子

アラートは警戒警報シェルターは防空壕とぞ戦時を

  思ふ           (加東市)上月節子

 くつをはくことなく逝きし娘の指の長かりしをおもひ

  湯船につかる      (瀬戸内市)児山たつ子

 夭折した嬰児のことは決して頭から離れることはない。まず、あの小

 

さな足。準備していたちっちゃな靴は履かないまま。あの娘の指はほっ

 

そりと長かったなア、成人してたら、爪も長くて真珠色してただろうに

 

。一人湯船に浸かっている。どうして、あなた逝っちゃったのかしらね。

 

この国に安倍の一強つづくごとわが家に妻の一強つづく 

                        (霧島市)久野茂樹

 住む人のゐなくなりたる鶴島に残りし墓はみな切支丹

              (兵庫県)札場秀彦

 いま、日本の離島が迎えているのは深刻な過疎化。若い人は島を離れ

 

都市へ向かったまま戻っては来ない。残る老人が滅してしまえば、無人

 

の孤島がまた一つ増える。この鶴島もそのうちの一つ。島に残っている

 

墓はすべて切支丹の印がついている。弾圧に耐えて苦しい生活を送り、

 

信仰に生きた祖先たちの胸中を思えば、そくそくとして胸を打つ。

 

 

 *くら谷へ地響き立てて傾れ落つ奈落の底に呻く雪魂

              (新発田市)北條祐史

 これは、降り積もった大雪を山の斜面が支え切れずに斜面を流れ下る

「雪崩」の一代記。雪を主題に、あたかも生き物であるかのように描か

れ、どんのつまりに奈落の底で呻く雪の魂。確かに、山の斜面からもん

どり打って雪煙を上げて次々に落下する雪崩雪の堆積。さぞや重かろう

である。いかんともし難い。そのまま我慢召されい、というほかはなく。

              (2018.2.15)

                     


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377 高稲架に蹴躓き行く雲のあり [文芸(短歌・俳句) 時事]

 

    随想コラム「目を光らせて」NO.377 「朝日歌壇・朝日俳壇

 

 

      俳壇 期間 2017.11.6~12.25

 

 

       高稲架に蹴躓き行く雲のあり

 

   

              * : 朝日新聞 201.11.06

                (群馬県東吾妻町)酒井大岳氏 作

                アオウ ヒコ

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    洋画家 青沼茜雲画伯の作品集から。40.「岩戸山より飛形を望む」

 

                     

       「朝日歌壇・朝日俳壇から

  朝日新聞の歌壇・俳壇の入選作の中から最新の世相を鋭く切り取った

 

 作品を新た選び、コメントを付けています。コメントは文芸上の範を

 

 超えることがあります。

 

  作品の頭に印が付いている作品は、時の政権が推進る前のめり

 

 右傾化路線平和憲法を無視し、国会の存在をないがしろにするさまを

 危惧する市民の投稿になるものです。

 

  これらの作品は、ここでは個々の作品の文芸上の軽重を問うことなく、

 注目すべき最新の世相を凝縮した作品として、そのすべてを採録してい

 ます。これらの作品に対しては、投稿者の真摯な叫びに読者の耳、素直

 従うべしとして、コメントはつけておません。

 

  また、文中敬称は省略しております。(筆者)

   朝日俳壇 2017.106

 

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   怒濤とは仙石原の花薄                                 

              (北本市)萩原行博

 外洋の海に風が吹き募って波が逆巻くさまを怒涛というのか、いやそ

 

の様に似たものが陸路にもある。それは仙石原の花芒の群に山風が吹き

 

下ろして起きる涛の姿。いつ見ても飽きない。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                       

                                                          

  蛇穴に我が闘争の二十代

 

               (豊田市)小澤光洋

 

 冬がまじかになり、蛇穴に入る季節である。この頃になると、私は自

 

分の将来を思い悩んで、蟄居したような暮らしに埋没した二十代が思い

 

出されてならない。この冬が明けたら、春になったら、と幾たび繰り返

 

したことやら。

                                                                           

 

  どの鯉もすっ裸なる水の秋

 

               (上尾市)中野博夫

 

 川を泳ぐ緋鯉や真鯉はなにかを纏って泳いでいるのか、と問われて素

 

っ頓狂な声を上げるでない。川魚はいつも裸で泳いでいる。その姿がい

 

つもと違ってくっきりと美しく見えるのは、秋近くなって水が澄んでき

 

たからだ。冷涼な好時節が巡ってきたから水が澄み,鯉の姿態もきれい

 

に見えるというわけ。

 

 

  長き夜やもう半分の酒かなし

 

                 (塩尻市)古厩林生

 

 秋口から冬にかけては日の暮れるのがみるみる早く、長い夜が続く

この長い夜を日によっては酒を飲みながら過しているのだが、あれ、気

 

が付けば、その肝心要の酒がもう半分以上も空けられている。寂しいこ

 

とかぎりなし。

 

 

  人麻呂の世の山河あり鳥渡る

 

                (浜田市)田中静龍

 

 今、日本の地図を空から俯瞰すれば、都市部にはニョキニョキと高層

 

ビルが林立しているが、そこを抜けると、昔変わらずの緑の山野が広が

 

り、川が流れている。大きく日本の土地を概観すれば、人麻呂の時代

 

山河とそうたいして変わっていない。その証左にはいまも変わらず多く

 

鳥が渡ってくるではないか。かれらが疲れた翼を下す場所は都会の摩

 

天楼のきざはしではない。昔ながらの変わらぬ緑の山河である。

 

 

   高稲架に蹴躓き行く雲のあり

 

              (群馬県東吾妻町)酒井大岳

 

 昨秋10月初旬、大学の旧友10人と連れだって新潟旅行をした。

 

その二日目、新潟駅で大型タクシーをチャーターして女性運転手の案

 

内で市内見物をした。10人の客を乗せて、タクシーは新潟の海岸線を

 

延々と走り、目的地の弥彦神社(新潟県西蒲原郡弥彦村にある元国幣

 

中社。祭神は天香山命(あまのかぐやまのみこと)に向かった。

 

 途中、車は稲田沿いの道を走り、今ではほとんど他では見られない

 

「高稲架(たかはざ)」の現物の傍に寄り道した。

 

               

 

 農家では、稲刈りが済むと、稲穂を束ね穂を下にしたものを二つ分け

 

にして乾燥するために稲掛けをする。掛ける物や場所を、稲木(いなぎ)

 

稲畑(いなばた)稲掛(いなかけ)稲架(はざ、はさ)などと呼び、地

 

域により異なる(広辞苑)が、稲を掛ける横木が何本もあって空に高く伸

 

びているものを「高稲架」と呼びならわすらしい。田圃の際にいくつか

 

の垂直に伸びる喬木を予め数本、均等に植えておき、稲の収穫時にはそ

 

の木に棒や竹を差し渡すように括りつけ、幾段かの「高稲架」とする。

 

 ここの「高稲架」は残り少ない証人みたいなところがあって、「ここ

 

に来るとほっとする」、「この稲架は末代々まで残したいものだ」と墨

 

書した賛が添えられ、額に入れて掲げられている。

 

              ■

 

 さて、ここでこの「高稲架」を詠った朝日歌壇入選歌の登場となる。

 

 歌の作者は今、農家が稲刈りを終えて、高稲架にかけて稲穂の乾燥に

 

大童の時、そこにいた。そして高い位置に干されている稲架を見るため

 

に天を仰いでいた。青い空には白い雲が浮かび、こちらへ流れて来る。

 

その雲が高稲架のところで、あたかも蹴躓いたかのようにぎくしゃくし

 

て、流れていった。その瞬間を彼は歌に詠んだ。

 

 愛妻を亡くした作者は、妻がこの世から消え失せたことが信じられな

 

い。眼には見えないが、妻は自分の周りに在る自然や小さな事物に事あ

 

るごとに乗り込んで、秘かに、または大っぴらに夫を見つめてくれてい

 

る現象に出会う。そこには地球上に残してきた主人への大らかな愛の配

 

慮と発露が込められており、夫はそれを聡くも蝕知しうる才を研澄ます

 

日々を送り、その経緯を句作にまとめる日常を送っている。

 

 この歌では、妻は夫に「私ね、高稲架の下で空を見上げているあなた

 

を、白い雲に乗って見詰めていたのね。そしたら、まさかあんなところ

 

に高稲架(たかはざ)が天に延びているのに気付かず、白雲が蹴躓いて

 

しまったの。それであなた、私が乗って居る事分かったのね。ちょっと

 

失敗したかしら?」であろうか。

 

                                                                             

   朝日俳壇 2017.11.12

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 沖縄にアメリカの空天高し

               (福島県伊達市)佐藤 茂

 一票を投じ天下の秋を知る

               (長野市)縣 展子

 凩や原発灯る枕元

               (豊田市)鈴木吉保

 

 

  秋の夜の親子の酒量逆転す

              (尾張旭市)古賀勇理央

 

 いつの間に子供のおまえ、こうも飲めるようになったのか。もう、酒

 

量では敵わんなあ。嬉しいようであり、悔しいようでもあるなあ。

 

 

  新米を収めし蔵に二重錠  (今治市)横田晴天子

 

 漸く収穫した新米。これまでの苦労は大変なものだった。この頃は知

 

ってか知らないでか、新米を狙う泥棒が跋扈するとあれば、収納蔵には

 

二重の錠を掛けておかねば。

 

 

 ★冷さまじや聾者の被爆語る手話

 

             (埼玉県宮代町)酒井忠正

 

 

  携帯の父の名削除十三夜 (加古川市)森木史子

 

 何かとお世話になった父。携帯の父の名を何度押したことだろう。

 

もう、押しても詮無いことだから、そろそろ削除しましょうか。

 

 

  父が酔い兄の饒舌新走 (神奈川県寒川町)石原美枝子

 

 今年の新酒は出来がよかったようですね。父が酔いつぶれ、兄の饒舌

 

かぎりなしですよ。私も少々お相伴に与れば言うことなしですよ。親子

 

の酒盛り、かくありたしで。

 

 

 

   朝日俳壇 2017.11.20

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  よく光る所が浅瀬天の川 (大村市)小谷一夫

 人間の眼光鋭く才豊かにして判断の凄さ、すばらしさ。凡夫が眺め上

げても確かに光る箇所あり、なるほど浅瀬のようだ。じゃ、光らず、飽

くまで暗い箇所はどうか。光らぬところは深々、宇宙の果ての冥府なり

しか。彦星と織姫、今宵の逢う瀬に浅瀬の淵で脚を滑らさぬように。

  大綿の飛べば十日で雪来ると (小樽市)伊藤玉枝

 秋が深み行くと次はいつ頃雪が来るかと冬の知らせが脳裏をかすめる。

「大気に大綿の白い繊維がふわふわと混じって飛ぶようになれば十日後

には雪が来る」との言い伝えがある。大綿は未だか。

  大琵琶の点睛得たり初鴨来  (西宮市)近藤六健

 琵琶湖は大きくて広すぎ、湖の風情に乏しいのが今一つ。そこへ、初

鴨到来で、漸く茫洋とした大琵琶湖にも,見どころができた。構図的にも

点睛を得たりの気分になりました。

  紅葉山全山落暉燃え尽きん  (大阪市)行者 婉 

 山全体が紅葉に包まれているのに、そこへ秋の落暉の赤が落ちるとな

れば、相乗効果で山のすべてが燃え尽きるようである。この落暉のピー

クはそう長くは続かず、まもなく陽は落ちて終結に向かうのだが、それ

までの巨大燃焼の推移にただ打ちのめされて見守るだけ。

  凩や樹の無き街は素通りす  (北本市)萩原行博 

 台風も暴風も雪吹雪も、これを遮る遮蔽物がなければ、その勢いを削

ぐものはなく、猛々しい風の勢力を維持したまま前進し続ける。凩も町

角の生垣に咲く赤い山茶花や町角で焚く焚火の煙にちらと目をやっても

防風林と思しき樹木の繁りがない街は素通りして行くようだ。

      朝日俳壇 2017.11.27

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  冬めきて両手に包む湯呑みかな (大津市)井上孝夫

 その昔、日本の家屋は冬の暖房には弱く、座敷に炭を熾した火鉢が一

つの部分暖房であった。家人は冬の寒さには慣れてはいたが、何かと暖

を求めて火鉢を囲んだ。今はエアコン暖房の時代。それでも、冬めく日

が続くと、茶を淹れた湯呑を両手で包み込むようにして冷たい手を暖め

ようとする。

  白樺の色付くころや鷹渡る  (長野市)鈴木しどみ

 鷹の渡りは一番遅いといわれている。それは白樺の木が色づく頃。目

安になる。そろそろですね、鷹が渡るのは。そろそろ冬に向いますね。

  小春の日憩ふ刈田の仰臥かな (八尾市)濱田幸策

 空はあくまで青く、風もなく、日が燦燦と輝きく温かな小春日の一日

稲刈りが済んだ田に仰臥する幸せを何に例えんです。

  石地蔵霰食ろうて家遠し (西東京市)からさわかつのり

 山の峠近くで旅人を見守る石地蔵に出会う。おりから、空が黝ずんで

パラパラと霰の飛散あり。このままの推移では、道中の難儀が思われる

。脚を早めよう。まだまだ家に帰りつくには相当あるぞ。

  尖りたるものに末枯忍び寄る (今治市)横田晴天子

 「尖っているものにはいつのまにか、完璧なほどの破壊が忍び寄るも

のだ」とのご託宣。先端が尖っているもの、鋭いもの、群れの中にあっ

て際立ち、目立つもの等は回復不能な末路に遭遇する、と言う意味を表

わす箴言であるのか。

 立冬のさみしき国の首相かな (横浜市)山本 裕

 

  枯るるもの枯れぬもの抱き山眠る

              (前橋市)荻原葉月

 樹でいえば、冬季に葉を落とすのが落葉樹、落とさずが、常緑樹。山

にはこの双方の樹々が混在している。冬季には落葉樹の成長はほとんど

ないが、常緑樹の場合も、その機能は弱弱しい。この両者を抱いて、山

は春の準備に余念がないが、人はこの間の山を「山眠る」と呼んでいる。

     (つづく → NO.377-2 )

                (2018.2.01)

 

 

 


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377-2  月もご覧ぜ歌も詠みませ御退位 [文芸(短歌・俳句) 時事]

 

   随想コラム「目を光らせて」NO.377-2 「朝日歌壇・朝日俳壇

 

      俳壇 期間 2017.12.4~25

 

 

     月もご覧ぜ歌も詠みませ御退位

   

      : 

      朝日新聞 201.12.25東京都)池田半呆子

             アオウ ヒコ

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                     20-151029  「枯葉」  酒井 健 (水彩画家)

 

                     

       「朝日歌壇・朝日俳壇から」(略)

   朝日俳壇 2017.104

            

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